短編『Ginger Boy』で好評を得た田中未来監督が、初長編『シルバー・エクスプレス』を通して、現代人の愛と絆を静かに、そして深く見つめる。チエリ(オカモト・ユイ)は、他人に恋愛感情や性的な惹かれを感じたことのない若い女性だ。恋愛が当然とされる世界で、いつも異邦人のような疎外感を抱いていた彼女は、恋愛感情を抱かないショウヤ(クリハラ・ハヤト)と出会い、初めて心の置き場所を見つける。しかし、チエリがアセクシュアルである一方、アロマンティックであるショウヤには肉体的な欲望があるため、二人が享受していた平穏にも亀裂が入り始める。監督は真摯な映像によって、独自の演出世界を鮮明に繰り広げる。俳優たちの確かな演技を土台に、チエリの内面を驚くほど繊細に捉え、孤立感と安堵感、二人の間に徐々に広がる微妙な葛藤を叙情的なイメージで描き出す。何より印象的なのは、独特で感覚的な「タッチ」だ。雰囲気と人物の微妙な機微、加工されていない感情の響きを逃さない鋭敏なまなざしが、いつまでも余韻を残す。新鋭オカモト・ユイの印象的な演技と、『ハッピーエンド』(2024)で注目されたクリハラ・ハヤトの存在感が重なり、映画はアセクシュアルとアロマンティックの世界を新たな視点から掘り下げる人物探究劇であると同時に、新人監督の独創的な美学を鮮明に刻み込む。