ある夏、都会から来た女性は、静かな海辺で母の故郷を訪れた男性と偶然出会う。ある冬、スランプに陥った作家は、雪に覆われた山中で一人、宿を守る主人を訪ねる。「李」は数年前、ある監督の提案で書いた映画のシナリオを思い出すたび、旅について考える。そして、恩師だった教授の遺品を携え、言葉という枠から抜け出すため、ふいに旅へ出る。シム・ウンギョンが演じる「李」は、母語ではない言語で文章を書く行為を「旅」にたとえる。旅の非日常性がもたらす驚きと戸惑いは、雨の降る海で一緒に泳ぎ、新たな縁の始まりを予告することもあれば、近隣の村の池で錦鯉を捕まえる楽しみが警察の出動につながることもある。劇中劇の夏の海辺の風景と対照をなす冬の雪景色のなかで、現実の境界はぼんやりと曖昧になる。魅惑の場が広がった真夏の昼の記憶、そして真冬の夜の夢のような騒動は、いつしか冷たい水の中へ消えていく。三宅唱の『旅と日々』は、つげ義春の漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』の2編を、独特な額縁構造で結び合わせた作品だ。長年にわたり呼吸を合わせてきた撮影監督の月永雄太は、二つの季節のなかで繰り広げられる二人の異邦人の旅を静かに捉え、後半を牽引するシム・ウンギョンと堤 真一の淡泊でありながら説得力のある演技が際立つ。