1985年、押井守がイラストレーターの天野喜孝とともに生み出した『天使のたまご』は、あらすじを要約することに意味のない、沈黙の黙示録だ。水に沈んだ廃墟の都市で、大きな卵を抱えて歩く少女が、十字架の形をした兵器を背負った青年と出会う。存在しない魚を追う漁師たち、化石となった鳥、そして方舟の記憶まで。台詞を極限まで削ぎ落としたその空白を聖書的な象徴と静寂に満ちたイメージが埋め、観客それぞれの解釈を待つ。もともとはオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)として発表されたが、その画面の密度は当初から劇場を目指していた。発表当時は難解だという理由で顧みられず、押井自身もこの作品によってしばらく仕事が途絶えたと回想した問題作だが、この失敗がなければ『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)の思索もなかっただろう。信仰とは何かという問いを、最後まで割れない卵のように抱えている映画。暗闇の中でひたすらイメージに浸る劇場鑑賞こそ、この作品を通り抜ける唯一の方法だ。